Interview vol.1 向井詩織

ブロックプリントの"表現"を探して





インド、カッチ地方アジュラクプールのブロックプリントの工房で、初の外国人プリンタ ーとして活動をしている向井詩織さん。いわゆるインドのブロックプリントのイメージや 概念を覆す、ダイナミックな作風が注目されています。いつから染織を? という問いに、 「テキスタイルに興味を持ったのは、大学を一度中退してからなんです」という意外な答え。 向井さんのブロックプリントに対する思いをおうかがいました。




スタートはグラフィックデザインを志して


最初はグラフィックデザインを勉強したくて、武蔵野美術大学(以下ムサビ)のデザイン 情報学科に進みました。デザインに関わる戦略や仕組み作りにも興味がありました。でも、 1年で行き詰まってしまって(笑)。2年目はアルバイトでお金を貯めながら、留学をしよ うか、でも目的がなく留学してもどうなんだろう、インターンシップの方がいいんだろうか ...など悩んだ末に、「旅に出よう」と決心し、大学は2年で一度退学しました。このまま大 学で3年、4年と進んでも何も得られないままだなと思ったんです。

1年半くらい世界を放浪して、また大学に戻ろうと思っていました。南米のボリビアから 旅を始めたのは、ウユニ塩湖に行きたかったから。その後、アルゼンチン、ウルグアイ、チ リ、ペルー、エクアドル、パナマ、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカと巡り、グアテ マラで4ヶ月、メキシコで4ヶ月、スペイン語の勉強をしました。これでほぼ1年が過ぎて しまったわけです。




グアテマラやメキシコに⻑く滞在し、たくさんきれいな布を見たのに、まだ「テキスタイ ル」ではなかったんですね。メキシコでお金が尽きて一時帰国し、すぐオーストラリアに行 って働きながらお金をためて アジアへの旅に出ました。そして、インドでテキスタイルに 魅入られてしまったのです。コルカタから⻄へと旅し、アーメダバードのキャリコミュージ アム※に行った時にガーンと大きな衝撃を受けました。あまりの衝撃に、3回行ってみたの ですが、行くたびにまたガツンとくる。キャリコミュージアムは刺繍布が多くて、ブロック プリントはわずかなんですが、インドの布はエネルギーがすごい。すっかり心を奪われてし まいました。


※キャリコミュージアム=アーメダバードの市内北部にある、 サラバイ家という繊維業で成功した財団が所有する美 術館。インドの第一級の染織物が見られる。(キャリコ=更紗の意)。https://www.calicomuseum.org





放浪の旅の先で出会ったブロックプリント





ミュージアムで出会った外人さんが「もう少し⻄に行ったらもっと面白いものが見られ るよ」と教えてくれ、それでカッチに行きました。アジュラクプールでブロックプリントに 出会って、そこで初めて「ああ、ちゃんとテキスタイルを勉強したい」と思ったんです。今 もお世話になっているスフィヤン・カトリの工房※で、アジュラック染めの体験もさせても らいましたが、自分はあまりにも布の知識がなさすぎると痛感し、染織の基本を学ぼうと決 心しました。藍染など日本の伝統工芸に弟子入りすることも考えましたが、ムサビに戻って テキスタイルを勉強することにしました。そのまま半年カッチに滞在して、資料を読んだり、 まとめたり、いろいろなテキスタイルの工房を巡って作品作りに専念し、そのポートフォリ オを持って受験に臨んだのです。今思うと、なんでパッションがあったのかと思いますね (笑)。決めてからはまったく迷いはありませんでした。


※アジュラックプリントの職人としてインドで人間国宝となったイスマイル・カトリ氏の息子、スフィヤン・カトリ氏の工房。




大学での試行錯誤の日々


日本に帰国して、ムサビの工芸工業デザイン学科のテキスタイル専攻の3年生に編入し たわけですが、この学科は 1~2 年で基礎を学んで、3年からは自分のオリジナルの制作に 入るという事実を入学してから知りました。なんと3年からだと基礎が学べない。私はイン ドで得た知識しかないので、じゃあブロックプリントを突き詰めようと。

インドのブロックプリントは、美しくて、きっちりしていて素晴らしいのだけれど、実は そのことに若干違和感がありました。整然としてなくても、ずれていても、かすれていても いいんじゃないかと。もっとイキイキとした、ブロックを生かしたデザインを考えてみたい と思ったのです。例えば1個だけのブロックで何ができるか考えてみたり、色数を少なくし たり。インドの伝統的な技法を踏襲するけれども、表現するものは製品ではなくて、アート にしたいと思いました。

ブロックプリントをやる学生はもちろんいなくて、型染め、シルクスクリーンが主流。普 通の染織は先媒染か後媒染かなので、染料自体に媒染剤が入っていて、それを押すというブ ロックプリントは説明も難しく、「木版スタンプね?」みたいな反応でした。

最初の1年は、なるべくミニマムな方法でブロックプリントの表現を探っていました。イ ンドの版木のように細かくなくてもいいし、木版の形を生かした、「押す」という技法で、 シルクスクリーンや機械では絶対出せない手の温もりを出せないか。同じ行為をしている のに、押す人によって、生まれてくるものが違う面白さ。ブロックプリントだからできるこ と、ブロックプリントにしかできない表現を追求したかったのです。





花の色を直接布に叩きつけた卒業制作


在学中もカッチへ通いました。滞在中の宿では、いろいろな国からのバイヤーに会う機会が多かったのですが、みな「これがハンドメイドってすごい。でもちょっとずれたり、かす れているところ、そこがいい」と言うんです。それなら、「ずれ」や「かすれ」を前面的に 出したデザインもありなんじゃないかなあと思っていました。

卒業制作では、ビオラの花の色を直接布に染めつける作品を作りました。ひとつひとつ手 間をかけているのに、最終形が見えているのはつまらない、もっとダイナミックなものを作 りたいと思ったんです。「押す」という行為で、布に色や文様をつけるのに、一番手取り早 いのは花をそのまま叩くことなのでは?と思い、ビオラ 400 株を育てながら、⻑さ 10m の 布に花を直接置き、ハンマーで叩いて色素を写しました。





同じ作業の繰り返しなのですが、予想外のものが生まれます。媒染剤などは使いませんで した。「そのままの色でいいじゃない」という思いがあって。染織の基本がないからそんなことを考えたのだと思います。定着させない。色が抜けてしまえば、作品として残せないか もしれません。それはそれでいいと思いました。

美しいものを染めるためには犠牲がいります。それでも人間は色をついたものを着たい、 作りたい。そんな人間のエゴ、醜い部分をも表現したかった。作っては廃れていく、色が抜 けて行く過程のグラデーションも美しさだと思いました。ありがたいことに、この卒業制作 は優秀作品賞をいただきました。




インドと日本、二拠点の制作





卒業後は、スフィヤンの工房でブロックプリント制作を始めました。滞在する場所や、制 作のスペース、道具、材料を提供してもらう代わりに、私はデザインを提供しています。ス フィヤンは英語も話しますが、他の職人さんはカッチ語で言葉が通じません。みんな忙しい のでほとんど放置なのですが、まずはコミュニケーションを取ることから始めました。かす れを目立たせたり、わざとずらしたり、そんな私のブロックプリントを見て、最初は「なん だコイツ、変なことやってる」と、覚めた目で見て、無言で去って行く感じでした(笑)。 でも途中で私が何をしようとしているのか察してくれたようで、「この子に教えても、その 通りにはやらないんだろうな」「同じことをしたいわけじゃないんだ」と、だんだん「異端 児」として認識されてきたんです。

ある時、作ったものをまとめてスフィヤンに見せたのですが、「これはゴミだ」とはっき り言われました。「やりたいことはわかるけど、これはマーケットでは価値がない、ゴミに なってしまう」と。スフィヤンは有能なビジネスマンなのです。でも内心では「こういうも のを日本人は意外と好きなのかもしれない」「シオリは、ブロックの手の感じを出したいん だろう」とわかってくれてはいたようです。




ゴミと言われても、私は方向性を変えませんでした。雨季(6~9 月)が終わって、観光客やバイヤーが来るようになって、そこで外の人に褒めてもらい、なんとありがたいことに、 インドのファッションデザイナーが私のデザインをオーダーしてくれたのです。「とてもい い」と褒めてくれ、スフィヤンも「オーダーが入ったなら作ろう」みたいな感じになり(笑)。 そして、その後、オーストラリアのとあるデザイナーも評価してくれたあたりから、スフィ ヤンは「シオリのデザインは売れるのか?」と見る目が変わってきたんです。インドマーケ ットでは絶対ダメと言っていたスフィヤンが、だんだん「いいね」と。嬉しかったですね。




インドのブロックプリントは、ブロックの模様や染料が重なるというのは NG でした。 かすれ、まだら、抜けはもちろんです。言ってしまえば、私はタブーばかりでデザインして いるのかもしれません。防染の上に染料を乗せたりもするのですから、何やってるの?って 感じです(笑)。でも誰もやっていないことをやりたいんです。

今後も、1年の半分はインドで制作して、日本で展示会をしてという活動を続けていきた いのですが、今はこの状況なので、今年はどうなるかわかりません。早く、安心して行き来 ができるようになることを願うばかりです。 ( 撮影/寺井晃子、文/菅野和子 )





向井詩織さんの個展「SHIORI MUKAI TEXTILE solo exhibition “Block Mon Yoh“」

7 月 9 日(木)~14 日(火) 代々木上原 hako gallery

SHIORI MUKAI TEXTILE

https://www.instagram.com/shiorimukaitextile/

Online Catalogue(7/10~22 限定公開)

https://www.instagram.com/blockmonyoh/

Facebook Event page

https://www.facebook.com/events/1398188623705693/

*インドでの制作の様子は、7 月 10 日のトークイベントでお話しいただきます。 https://peatix.com/event/1532854/view






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